暗黙知とは?意味やナレッジマネジメントのために形式知化する方法を解説
企業の大切な資産となりうるナレッジには「暗黙知」と「形式知」の2種類があります。その2つを管理、運用する「ナレッジマネジメント」が人材の流動が激化する現代では注目されています。これは人材不足による生産性を落とさない、従業員のノウハウやナレッジを企業の資産に変えていけるからです。
しかし、ナレッジマネジメントに馴染みがないと暗黙知や形式知といった言葉の意味がわからず、取り組みづらいと感じている方も多いでしょう。
今回はナレッジマネジメントにおける「暗黙知」について解説します。業務効率化や企業の成長に繋がる重要なキーワードなので、この機会にしっかりと知っておきましょう。
目次
暗黙知とは
暗黙知は、コトバンクによると、暗黙知は下記のように定義されています。
暗黙知言語化できない知識。ハンガリーの物理化学者、社会科学者であるM・ポランニーの用語で、『暗黙知の次元』(原著は1966年)で議論された。人間の身体性に基づいた部分は言語化できないことが多い。たとえば、自転車の乗り方の多くの部分は言語化できない。
引用元: コトバンク
つまり、主観的で言語化することができない知識、長年の経験やノウハウ、勘やイメージといった経験的知識のことを指します。ナレッジマネジメントの世界では、主に形式知(客観的にとらえることができ、かつ言葉や構造をもって説明、表現できる知識)と対になって用いられます。
暗黙知は個人が持っている主観的な知識です。
この主観的な知識は言語化されていないため、誰かに伝えようと思っても難しく、形式知への変換は容易ではありません。
企業に勤めてきたなかで自然と身についた経験則が、暗黙知として個人に蓄積されます。
業務上で起こりうるトラブルの対処や予知、「こうすれば上手くいく」といった個人の持つ勘所、といったものが当てはまります。
しかし、その経験則を他人と共有するとなると困難を極めます。練習を繰り返してようやく得られた感覚を他人と共有するには高度な言語化技術を要することは必至です。
形式知との違い
形式知とは、文章や計算式、図表などで説明、表現できる知識のことです。明示知とも呼ばれます。
組織における形式知の一般的な例には、作業手順やマニュアル、報告書などがあります。形となって表されたものであるため、誰でも客観的に認識することが可能です。暗黙知と相反するもののようにも見えますが、暗黙知をうまく形式に落とし込んだものが形式知だといえます。
暗黙知は個人が持つノウハウであり言語化できない知識である一方、形式知は言語や図表などで可視化ができる知識です。暗黙知を他者に共有できる状態に落とし込んだものが形式知となります。
暗黙知・形式知の具体例
暗黙知・形式知の具体例を解説します。
暗黙知の具体例
暗黙知の具体例としては、社員が働きながら会得したノウハウやテクニックなどが挙げられます。誰かに教わることなく身についた業務上のノウハウやテクニックは、他の社員や企業にとって有益な情報であることに間違いありません。
たとえば、ユーザー辞書の登録やショートカットキーを使うことによって、同じような文字列を何度も入力する事務職の入力時間を大幅に短縮できる、といった事例はノウハウにあたります。たった一人の時間を短縮しても大きな効果は得られませんが、事務職の全員が同じ時間を短縮できれば業務効率化に大いに役立ちます。
このようなノウハウ・テクニックは属人化しているケースが少なくありません。言語化できておらず簡単に共有できないため、暗黙知として分類されます。
形式知の具体例
形式知の具体例としては、業務フローや作業マニュアルなどが挙げられます。業務フローや作業マニュアルなどの資料は、個人のノウハウやテクニックなどに依らず、誰でも客観的に認識・理解できます。
前述した事例で言えば、ユーザー辞書の登録やショートカットキーの利用方法がマニュアル化されていれば、誰でも簡単に幅広い業務で活用できるでしょう。
このようにノウハウやテクニックが文章や図表などで表現され、誰にでも共有できるものが形式知として分類されます。
暗黙知の課題や放置することのリスク
現在のビジネス業界で形式知化されていないことによる課題や、暗黙知を放置することによって発生しうる具体的なリスクを3つ解説します。
知識・技能継承問題が発生する
暗黙知を放置し、個人が持つノウハウ・テクニックが属人化してしまうと、知識や技能が若手世代に継承されなくなってしまいます。結果として、今後の企業を担う世代が必要な知識・技能を習得できず、主力として動けなくなってしまいます。
特に製造業においてはこの傾向が顕著であり、熟練技術者の定年退職による知識・技能継承が大きな課題となっています。
製造業における技能継承とその対策については、以下の記事で詳しく解説しています。
業務効率・生産性の低下に繋がる
知識・技能継承が進まず、特定業務に対応できる担当者が限定されてしまうと、担当者間での連携やフォローができず、業務効率や生産性の低下が発生します。
近年では労働者不足への対応やワークライフバランスの実現がより求められるようになっていますが、特定の担当者に負荷が偏ると、労働者不足やワークライフバランスの悪化がさらに進む恐れがあります。
企業成長の鈍化に繋がる
暗黙知から形式知への変換が進まないと、熟練技術者の退職による業務停止のリスクが生じるだけでなく、十分な改善やイノベーションが生まれなくなります。
本来であればさまざまな視点から生まれるべき改善やイノベーションも、個人のなかに暗黙知としてとどまることで、その可能性は失われてしまいます。結果として、企業成長の鈍化や健全な企業成長を妨げる要因となります。
形式知化するメリット
暗黙知の課題や放置することのリスクをふまえ、暗黙知を形式知化することで得られる主なメリットを3つ解説します。
業務の効率化・生産性の向上が図れる
暗黙知が形式知に変換され、広く共有できるようになれば、特定業務に対応できる担当者が増え、担当者間で連携を取りながら効率的に業務を進められるようになります。また、ノウハウを別の分野に活用することで、生産性が向上するなどの事例にも繋がるでしょう。
属人化が防げる
属人化が防止できれば、特定業務に対応できる担当者を増やすことができます。業務が属人化している状態では、業務効率や生産性の低下に加え、突発の休暇や退職などにより業務が停止するリスクも生まれます。企業活動を安定的に継続するうえでも、属人化の防止には大きなメリットがあるでしょう。
教育がスムーズに行えるようになる
社内のノウハウを暗黙知のまま教育を行おうとすると、いわゆる「見て学ぶ」かたちになり、知識や技能の継承が完了するまでに長い年月がかかります。
たとえば、業務のマニュアルが整備されていない状態では、新入社員や部署異動者が新しい業務を習得するまでの教育に多くの時間的・人的コストを要します。
一方、暗黙知が形式知に変換されていれば、担当者がすぐに業務内容を理解し、知識や技能を継承するための時間を短縮できるなど、教育をスムーズに行えるでしょう。
暗黙知を形式知化する際の注意点
暗黙知を形式知化する際、どのような方法で変換するかを決めておかないと、失敗に繋がりやすくなります。また、書類等アナログ形式での形式知化を行うと情報更新を行いにくいというデメリットが生まれます。
以下の記事ではナレッジマネジメントにおける形式知について詳しく解説しています。併せてご覧ください。
形式知化するにはナレッジマネジメントが必要
ナレッジマネジメントとは、企業に属する社員が持っている知識や情報をマネジメントする取り組みです。
社員一人一人が持つナレッジは暗黙知とも呼ばれ、普段は表に出てくることがありません。企業にとってどれだけ有益な情報でも、社員個人の知見になるため、転職や退職に伴い失われてしまう可能性があります。
そのような事態を防ぐため、誰にでも理解できるように社員個人が持つナレッジ=暗黙知を形式知化するのがナレッジマネジメントです。
ナレッジマネジメント自体は新しい概念ではなく、日本でも古くから意識されてきた内容ではありますが、雇用システムの変化や人材の流動化、働き方の多様化、IT化・グローバル化などを背景に、再び注目を集めるようになっています。
ナレッジマネジメントのメリットなどは、以下の記事で詳しく解説しています。
ナレッジマネジメントの基本的なサイクルとしては「SECIモデル」が挙げられます。SECIモデルについては、次項で詳しく見ていきます。
形式知に変換・蓄積するためのナレッジマネジメントの基本
ナレッジマネジメントにおいては、どのような方法で暗黙知を形式知に変換すればいいのかを理解しておく必要があります。ここからは、暗黙知を形式知に変換・蓄積するための方法について説明します。
SECIモデルの活用
SECIモデルのフェーズは「共同化」「表出化」「結合化」「内面化」の4つに分かれており、暗黙知から形式知への変換・蓄積は以下のように進みます。
- 共同化:個人の暗黙知を複数人の暗黙知へと共同化。この段階では形式知に変換はされていない
- 表出化:共同化された暗黙知を誰でも理解ができる形式知へと変換
- 結合化:表出化のフェーズで変換した形式知を既存の形式知と組み合わせ、新たな知識・技術を生み出す
- 内面化:結合化で得られた知識・技術を個人が取り入れ、さらなる暗黙知を形成
SECIモデルでは、暗黙知を形式知に変換できると共に新たな暗黙知を発見するサイクルが生まれ、暗黙知を形式知に継続的に変換・蓄積し続けられるようになります。
SECIモデルについては下記記事でも詳しく解説しています。
場の創造
SECIモデルの4つのプロセスを行うためには、それぞれに適した場を創造する必要があります。それぞれの場の内容は以下の通りです。
- 創発場(共同化):個々人の暗黙知を明らかにするさまざまなコミュニケーションの場
- 対話場(表出化):対話を通して暗黙知を言語化・概念化し形式知へと変換する場
- システム場(結合化):形式知を集約し理解しやすいかたちに結合する場
- 実践場(内面化):形式を実践し再び暗黙知へと変換する場
適切な場を創造し、SECIモデルのサイクルを回すことで、より深いナレッジマネジメントを実現できます。
知識資産と捉えて継承していく
ナレッジを企業における知識資産と捉え、若い世代に継承していくことも、ナレッジマネジメントの一つです。ベテラン社員が持つ暗黙知のナレッジを共有するための場を設け、知識資産であるナレッジを蓄積していきます。ここで共有したナレッジは、いわば代々継ぎ足している秘伝のタレのレシピのようなものです。
ナレッジが蓄積され、知識資産として活用できるようになれば、迅速な対応による顧客満足度の向上や社員間での進捗把握の円滑化など、さまざまなメリットが得られます。
ナレッジの蓄積・共有については下記の記事でも詳しく解説しています。
ナレッジリーダーシップ
ナレッジマネジメントは一朝一夕で定着するものではありません。ナレッジマネジメントを成功に導くためには、適切なリーダーの存在が重要となります。
ナレッジリーダーシップを発揮できる人材に求められる要素としては、以下の3点が挙げられます。
- ナレッジ共有を率先して行い、誰でもナレッジ共有しやすい環境をつくれること
- ナレッジマネジメントの目的をチームに共有し、浸透させられること
- ナレッジ共有ツールの操作を熟知し、メンバーをフォローできること
ナレッジリーダーシップについては以下の記事でも詳しく解説しています。
ナレッジ共有ツールの活用
暗黙知から形式知へと変換するにあたっては、ナレッジ共有を目的としたナレッジ共有ツールを使用する方法があります。ナレッジマネジメント促進のため、「ヘルプデスク型」「業務プロセス型」「ベストプラクティス型」「経営資産・戦略策定型」と、目的に合わせたナレッジ共有ツールを利用することが可能です。
ナレッジ共有ツールを利用すると、時間や場所に縛られず誰でもナレッジ共有ができるとともに、フォルダ分け・タグ付けなどでナレッジの整理がしやすくなります。また、検索機能に優れたナレッジ共有ツールであれば、すぐに蓄積したナレッジを取り出すことができるでしょう。
ナレッジ共有ツールはさまざまな企業が開発・提供しており、機能性や操作性などがツールによって異なりますので、自社がナレッジ共有にどのような課題を抱えているのか把握し、適切なナレッジ共有ツールを活用することが大切です。
ナレッジ共有ツールの選定方法などは下記の記事で詳しく解説しています。
暗黙知を形式知に変え共有するなら「Qast」
暗黙知を形式知へと変換しやすいナレッジ共有ツールを探しているならナレッジ経営クラウドの「Qast」がおすすめです。
タイトルと本文を入力したメモを投稿していくことでナレッジを蓄積することができます。誰でも使えるシンプルな設計や、手軽な利用方法が魅力です。
また、Q&A機能を使えば先人たちのノウハウやテクニックを聞き出すことも可能です。過去のQ&Aを検索でき、暗黙知から形式知への変換・蓄積がしやすいため、ナレッジマネジメントに適しています。
まとめ
暗黙知とは、個人が持っていながらも共有されることなく属人化しているナレッジを指します。暗黙知はそのままの状態だと他者に共有することが困難であるため、企業の資産として形式知へ変換する必要があります。また、形式知を共有・活用するためにはナレッジマネジメントの考えが重要となります。
社員同士の努力だけでは難しいナレッジマネジメントも、Qastのようなナレッジ共有ツールを使えばスムーズに行えます。暗黙知から形式知への変換や、知識資産としての継承・蓄積などを一手に担うことができるナレッジ共有ツールは、企業が成長するために欠かせない存在です。
個々が持っている暗黙知を見過ごさず形式知にできるよう、ナレッジ共有ツールを活用してナレッジマネジメントに取り組んでみてはいかがでしょうか。