SECIモデルとは?ナレッジマネジメントへの活用方法を具体例交えながら解説
属人化したナレッジを組織内で共有し、知識財産として蓄えるナレッジマネジメント。現在注目を集めている経営手法ですが、仕組みをしっかり理解しておかないと、取り組んでも効果を得ることが難しいでしょう。
今回はナレッジマネジメントに欠かせない「SECIモデル」について解説します。ナレッジマネジメントを成功させるためにも、この機会にしっかりと仕組みを理解しておきましょう。
目次
SECIモデルとは
社内に存在する知識や技術などのナレッジは、暗黙知と形式知の2種類に分けることができます。SECI(セキ)モデルとは、個人が持つ知識や技術といった「暗黙知」を、組織で管理し共有する「形式知」へ変える基本の枠組みです。
枠組みのプロセスである
- 共同化(Socialization)
- 表出化(Externalization)
- 連結化(Combination)
- 内面化(Internalization)
のそれぞれの頭文字をとってSECIモデルとしています。
SECIモデルの各プロセスのサイクルを回せば、暗黙知から形式知への変換や新しい暗黙知の発見から形式知への変換が繰り返され、より効果的なナレッジの収集と蓄積に繋がるでしょう。
ナレッジマネジメントや暗黙知・形式知との関係性
組織的にナレッジを共有・管理する手法として、ナレッジマネジメントという言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。SECIモデルがこのナレッジマネジメントや暗黙知・形式知とどのような関係にあるのかを解説します。
ナレッジマネジメント
「ナレッジマネジメント(Knowledge Management)」とは、知識(knowledge)を管理(management)して経営の課題解決や事業成長を図る手法です。ナレッジを組織全体に共有すると業務の属人化が防げ、業務効率化や生産性向上など、さまざまなメリットが得られます。 ナレッジマネジメントにもさまざまな進め方がありますが、SECIモデルをもとに暗黙知を形式知化し管理・運用していけば、効果的なナレッジマネジメントを実現できます。暗黙知から形式知へ、形式知から暗黙知へと何度もサイクルを回していくことでナレッジが洗練されていき、ナレッジマネジメントを成功へと導けるでしょう。
ナレッジマネジメントについては以下の記事でより詳しく解説しています。
暗黙知・形式知
暗黙知とは、個々が経験していくなかで培った知識や技術のことを指します。分かりやすくいうと、コツや勘に近いものです。主観的で言語化が難しいため、簡単に共有できないという特徴があります。
一方、形式知とは、暗黙知をマニュアル化やテンプレート化することで誰でも取得できるようにしたものを指します。暗黙知を形式知とすると他者と共有しやすくなり、組織全体で活用できるようになります。
SECIモデルは、暗黙知と形式知を交互に繰り返し、知識・技術といったナレッジを研磨する仕組みです。SECIモデルを活用すれば暗黙知から形式知への変換がスムーズに実行でき、より洗練されたナレッジの獲得に繋がります。
暗黙知および形式知については、以下の記事でより詳しく解説しています。
SECIモデルの根幹である4つのプロセス
ナレッジマネジメントにおけるSECIモデルは、大きく分けて4つのプロセスがあります。
4つのプロセスは暗黙知や形式知がお互いに変換する段階を表していて「共同化」「表出化」「結合化」「内面化」と順を追う形です。これらのプロセスについて一つずつ解説していきます。
共同化プロセス
共同化は、暗黙知から暗黙知へ共同するプロセスです。
よくある例では「師匠が持つ職人技(ナレッジ)を弟子が目で見て学ぶ」ということが挙げられます。共同化の段階では、コツや勘などの暗黙知を覚えただけです。 マニュアル化をはじめとする形式知になっていないため、この段階では組織の知識資産にはなっていません。
表出化プロセス
表出化は、共同化によって得た暗黙知を形式知へと変換するプロセスです。師匠から見て学んだ知識や技術を、言語化して誰が見ても理解できるようにまとめます。個人から個人へ共同化したプロセスと違い、より多くの人とナレッジの共有が可能です。
連結化プロセス
連結化は、表出化した形式知と別の形式知を連結するプロセスです。既存の形式知同士を組み合わせることによって新たな知識や技術が生まれる可能性を秘めています。 組み合わせ次第ではイノベーションのきっかけにもなりえるプロセスです。
内面化プロセス
内面化は、結合化して生まれた新たな形式知を個人が取り入れることによって、再び暗黙知を形成していくプロセスです。形式知を実践するうちにコツや勘をつかみ、個人のなかで暗黙知として確固たるものへと変化していきます。 内面化によって得た暗黙知は、最初のプロセスに戻って共同化からリピートを繰り返します。
SECIモデルのプロセスに必要な「場」とは
SECIモデルにおける4つのプロセスを行うためには、それぞれに適した場が必要です。 ここからは「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」の4つのプロセスに合わせた場について、具体例を挙げながら解説していきます。
共同化するための創発場
暗黙知から暗黙知を生む創発の場は、特定の場所に限らずその時の状況を表すことが多いです。昼休みの喫煙所で交わした会話や週末の飲み会で行った雑談など、あらゆる場所でのコミュニケーションが共同化の場です。
リモートワークが増え、オンライン通話が創発場になることもあります。創発場はいつどこで「場」が発生するか分からないという特性を持っているのです。共同化はコミュニケーションが必要な性質上、1人で行うことができません。
暗黙知のナレッジが個人の枠を越えて他人に接触した瞬間、初めて共同化に至ります。
創発場の具体例
- 喫煙所での会話
- ランチ・飲み会での会話
- 給湯室や廊下でのすれ違い時の会話
- 座席の隣同士での雑談
- 社内SNSでのコミュニケーション など
表出化するための対話場
暗黙知を言語化や概念化して形式知へと変換するのが表出化プロセスの場です。
表出化プロセスは対話によって生まれます。
マニュアル・資料づくりやミーティングでの対話を通して暗黙知を出し、形式知にまとめます。対話場が生まれるのは、暗黙知が集まる場所でもあるオフィスが多いです。創発場と違う点は、対話場の発生に突発性がないことです。
表出化するための対話場をあらかじめ用意しておくことが多いです。
対話場の具体例
- ミーティングや会議全般
- 1on1面談
- 社員研修 など
連結化するためのシステム場
複数の形式知が連結するためのシステム場は、形式知が集まる場所が適しています。形式知を持つ者同士が必ずしも対面する必要はないため、オンラインが場になることも珍しくありません。
オンライン上なら人数に制約もなく、膨大な量の形式知をシステム場に集めることが可能です。オンライン上で発生するシステムの例としては、チャットツールや掲示板などが挙げられます。
システム場の具体例
- オンラインミーティング
- 社内SNSやチャットでのディスカッション
- クラウドツールのドキュメント共有
- ナレッジマネジメントツール など
内面化するための実践場
形式知を自分自身のなかへ落とし込み、暗黙知へ変えるのが実践場です。実践する場なので、ナレッジの内容によって場所はさまざまです。特定の場所はありませんが、労働自体をそのまま実践場として活用する機会が多いでしょう。
実践場においては、ただ形式知を実践するわけではありません。実践によって個人が得られる知見こそが内面化の真骨頂である暗黙知です。
実践場の具体例
- 従業員のデスク、居室フロア
- 従業員の作業現場 など
SECIモデルの導入における課題
SECIモデルの導入はナレッジマネジメントの取り組みにおいて非常に重要ですが、取り組みが進みにくいといった側面があります。取り組みを難しくさせる主な要因を解説します。
属人化したノウハウの形式知化が難しい
ノウハウを形式知化する際には、ノウハウを持っている人が自分の手を止めて形式知化に取り組む必要があるなど、少なからず負担がかかります。
また、ノウハウを持っている人からすると、自ら苦労して身に付けたノウハウを他の人に共有することに抵抗を感じるケースもあるでしょう。そのため情報の吸い上げができず、形式知化が進まない現場が多く見られます。
暗黙知から形式知への変換は簡単に行えるものではないため、ノウハウを持っている人に形式知化の必要性や重要性を知ってもらい、納得感を得ながら協力してもらうことが重要となります。
明確なゴールが存在しない
SECIモデルは継続的にナレッジを研磨していく仕組みであり、明確なゴールが存在しません。そのため、取り組みに対する評価を行うのが難しいという課題があります。
ナレッジマネジメントに取り組む際には、適宜マイルストーンを設置し、その期間でどのような状態になっていれば評価対象とみなすのかを定義しながら取り組むことが必要です。
技術や知識の習得に時間がかかる
ノウハウが形式知として広く共有されるようになったとしても、そのノウハウを実際に習得するためには時間や手間がかかります。
迅速かつ正確に作業を実施できる熟練者と比べると、ノウハウを習得するまでの期間は一時的に品質の低下が発生する可能性があるでしょう。
そうした状況を受け入れつつ、組織としてノウハウを習得できる環境を整えられるかも重要なポイントです。
SECIモデルの活用事例
SECIモデルが実際の企業でどのように活用されているのか、具体的な事例をご紹介します。
活用事例1
IT事業を手掛けるA社では、リアルとバーチャルを組み合わせた場を整備し、ナレッジマネジメントに取り組んでいます。
リアルな場としては、フリーアドレスを導入したベースゾーン、チームでの対話がしやすいクリエイティブゾーン、作業に集中できるコンセントレーションゾーン、リフレッシュしながらコミュニケーションを取れるリフレッシュゾーンを整備しています。またバーチャルな場としては、従業員の個人ホームページを公開するシステム、部や課単位でのノウハウ共有ベースの構築を行っています。
リアルとバーチャル双方を組み合わせた場を整備することで、近年のリモートワークなどにも対応したナレッジ共有が行いやすい環境を実現しています。
活用事例2
製造業のB社では、製品開発現場の暗黙知を形式知化する取り組みを進めています。製品開発の後工程である製造や出荷などのエンジニアも含めた対話場所を構築するとともに、オンラインで設計情報を共有できるシステムを導入しています。また、システム上に特に優れた情報をリスト化し、さらなる研磨を行う環境を整備しています。
製造業においては、個々の工程で情報を閉じず、サプライチェーン全体をふまえたやり取りが行えるかも重要なポイントとなるでしょう。
SECIモデルを成功させるポイント
SECIモデル導入における課題を踏まえ、SECIモデルを成功させるポイントを4つ解説します。
SECIモデルに取り組むメリットを周知させる
ノウハウを持った人に形式知化に積極的に取り組んでもらえるよう、SECIモデルに取り組むメリットを周知します。
属人化を防ぐ、新入社員の教育に役立つ、業務効率化が図れるなど、会社に対するメリットが多数あることを全社員に周知し、理解を進めましょう。
また、ワークライフバランスの実現や人事評価アップなど、社員としてのメリットもあることも適宜周知していくとよいでしょう。
暗黙知を共有しやすい環境を整える
SECIモデル導入における評価を解決するため、暗黙知を共有しやすい環境を整えましょう。
例えば、社内の勉強会やミーティング、暗黙知を共有することに対する人事評価など、暗黙知を共有することで評価され、社員が暗黙知を積極的に出そうと思える仕組み作りを行います。
ナレッジ共有ツールも併せて導入する
SECIモデル導入の際は、ナレッジ共有ツールも併せて導入するのがおすすめです。社員がSECIモデルに取り組みやすくなるよう、IT環境の整備を行いましょう。
ツールは複雑なもので浸透しにくいと考えている方も多いと思いますが、そういった場合は、シンプルな操作性のものを選ぶとよいでしょう。
例えば、ナレッジプラットフォームの「Qast」であれば、見た目も操作性もシンプルで分かりやすく、さまざまなシーンで活用できます。ITツールを利用することで、社員は時間や場所を問わずに暗黙知を出し形式知化できるようになり、形式知化したナレッジをストックしていくという流れができます。
各プロセスを何度も回していく
SECIモデルは継続的にナレッジを研磨していく仕組みです。各プロセスを何度も回していくことで、よりよいナレッジの獲得に繋がります。
しかし、前述のとおりSECIモデルには明確なゴールが存在しないため、継続的な取り組みが行われにくいという問題があります。マイルストーンを設置した評価体制などを整え、継続的にサイクルが回る環境の構築を意識しましょう。
SECIモデルを実現するために「Qast」の活用を
SECIモデルを実現するためには、「Qast」のようなナレッジプラットフォームを利用する方法が適しています。
Qastは誰でも使いやすいシンプルなナレッジ共有ツールであり、気軽にメッセージやコメントを残せるメモ機能、分からないことを質問できるQ&A機能などがあります。Qastを活用することで、オンライン上にもSECIモデルにおける創発場、対話場を構築できるでしょう。
また、Qastはナレッジの蓄積に特化したツールです。高度な検索機能で蓄積した情報をすぐに取り出せるため、ツール内でやり取りした形式知を確認する場としての役割も果たせます。暗黙知を言語化し、形式知として共有するという一連の流れをQast上で行えば、SECIモデルを継続的に回すのに適した環境を実現できるでしょう。
まとめ
ナレッジマネジメントには、共同化・表出化・連結化・内面化の4つからなるSECIモデルという枠組みがあります。このSECIモデルの仕組みを組織全体がしっかりと理解し実践できれば、個々の持つナレッジは研磨され、より質の高いナレッジへとアップデートできます。
また、同時に組織全体の知識資産もアップデートを繰り返し、ナレッジを活用した生産性の向上や業務効率化に貢献すると考えられます。担当者の転職や退職にともなって失う可能性のあるナレッジでも、組織全体で共有しておけば、実質的な損失を防ぐことに繋がるでしょう。
ぜひQastを使ってSECIモデルを実現する「場」をつくり、暗黙知と形式知の変換を繰り返しながら知識資産を蓄積していきましょう。