形式知とは?ナレッジマネジメントで知識を見える化し組織力を高める
近年、導入する企業が非常に増えているナレッジマネジメントですが、ナレッジマネジメントに取り組むにあたって欠かせない「形式知」について、深く理解できている企業は実は多くないようです。
ナレッジは、知識という意味である“knowledge”からきた言葉です。ビジネスシーンでは、個人が持つ知識やスキル、ノウハウなどの「企業にとって有益な情報」を指します。ナレッジには、見える化されて人に伝えやすい「形式知」と、見える化されておらず属人化しがちな「暗黙知」の2種類があります。
どちらも企業を成長させる上で必要なナレッジですが、今回は主に「形式知」について詳しく解説していきます。
目次
形式知とは
まずは、形式知の意味や暗黙知との違い、形式知と暗黙知の具体例を解説します。
形式知の意味・定義
まずは「形式知」のことばの意味から確認してみましょう。
形式知
1 客観的で言語化できる知識。ハンガリーの哲学者マイケル=ポランニーが提唱した概念。→暗黙知
2 ナレッジマネージメントにおいて、言語化・視覚化・数式化・マニュアル化された知識。経営学者、野中郁次郎の定義による。明示知。→暗黙知
[補説] 2について、野中は、長年の経験や勘に基づく暗黙知と対になる概念だとして、失われつつある日本独特の企業風土の下、暗黙知を形式知にして共有化を進めることの重要性を指摘した。
引用元: コトバンク「形式知」
つまり「形式知」とは、文章・図表・数式・マニュアルなど、何らかの形式で表現された知識のことです。
暗黙知との違い
文章や図表・計算式などで見える化されている情報や知識の形式知に対して、個人が感覚として持っているものを暗黙知といいます。つまり暗黙知とは、見える化されていない情報や知識です。
人の感覚に頼る作業や勘によるタイミングなど、暗黙知には言語化やマニュアル化が難しいものが多いです。
形式知と暗黙知とは、相反するもののようにも見えます。しかし、暗黙知をうまく何らかの形式に落とし込んだものが、形式知になるのです。
ナレッジマネジメントのポイントは、暗黙知をいかにうまく形式知化するかにあるといっても過言ではありません。
暗黙知については、以下の記事でも詳しく解説しています。ぜひ併せてご覧ください。
形式知と暗黙知の具体例
形式知と暗黙知の具体例としては以下のようなことが挙げられます。
形式知 | 個人に依存せず誰でも客観的に認識・理解できる資料 業務フローや作業マニュアルなど |
---|---|
暗黙知 | 社員が独自に身につけたノウハウやテクニック 熟練工のカンに頼った作業や経験に基づく作業判断など |
暗黙知を形式知(見える化)にすることの重要性
文章や図表・数式に表しにくい暗黙知は、わざわざ何らかの形式に落とし込むよりも、そのまま暗黙知としておくほうが、ナレッジを持つ本人にとって楽な場合もあります。
しかし、特定の個人がいないと成り立たない仕事があるような状況は、ときにナレッジを持つ本人や企業の成長を妨げることになります。
つまり、暗黙知を見える化して形式知にすることは、企業と従業員双方の成長において重要な意味を持つのです。
「コツ」やテクニックは口頭だけでは伝わらない
仕事におけるコツやテクニックは、マニュアル化されにくい暗黙知の一つと言えます。口頭だけで仕事のやり方を伝えるような場面は一般的な職場でもしばしば見られることですし、特に職人的な技術については「熟練者の背中を見る」ことが唯一の継承方法であるようなケースもあります。
しかし、そうしたナレッジを確実に他の人や次の世代に伝え残したい場合は、やはりメモなど何らかの形で記録する必要があります。参照可能な形式知を残すことで、貴重なナレッジが失われたり、間違って伝わったりすることを回避できます。
作業が属人化するのを防げる
暗黙知が個人に留まっている間は、ナレッジ保有者が毎回その作業を担当することになるでしょう。最初は、自分だけが役に立てることに喜びを感じるかもしれません。しかし、同じことを繰り返すのを負担に感じるようになったり、他の経験を積む妨げになったりする可能性もあるのです。
暗黙知を形式知に変えることができれば、そのナレッジを他の人も活用できるようになります。形式知化は、企業にとって作業の属人化のリスクを防ぐことに繋がります。
従業員の持つノウハウを蓄積できる
暗黙知を持っている人が企業から離れると、大切なノウハウは企業から消えてしまうことになります。新しい担当者が必要な情報を探し出し、一からノウハウを積み上げていくには時間がかかります。そこで、暗黙知であるノウハウは形式知に変えて、他の人も使えるように伝えていくべきでしょう。
ノウハウを形式知に変えて伝える場合、口頭で伝えただけでは、細かい部分までは伝わらなかったり、間違って伝わってしまったりする懸念があります。形式知は、後に参照できる形にしておくことが重要です。蓄積した形式知は、企業や組織の知的財産となっていきます。
形式知化するために重要なナレッジマネジメントとは
ナレッジマネジメントとは、企業内のナレッジを組織的に管理する手法を指します。企業がナレッジマネジメントを行うのは、顧客へのよりよいサービスと新規顧客の開拓、そしてさらなる利益の追求と企業の成長が目的です。
ナレッジマネジメントの実践には、全社員に高いレベルの知識やスキル・ノウハウが求められます。
ナレッジマネジメントは、属人的な経験によって蓄積されるノウハウや技能などの言語化できていない知識である「暗黙知」を、マニュアルや業務フローで言語化され、文章や図表・計算式などで表す「形式知」に変えていくことです。
形式知化しやすいナレッジとしては、企業の営業マニュアルや顧客に関する情報などが当てはまります。
文章や図表・計算式などの見える化された形で「顧客への対応方法」が記録されていれば、同じように行動するだけでなく、従来のやり方を元にした新たなアプローチも見つけやすくなるでしょう。
形式知としてのマニュアルに沿って行動する際に新たな気付きを追加すれば、更新された形式知を次の世代へ繋げることができます。形式知とは全社員のナレッジを一定レベルに引き上げるための土台であり、更新していくことにより企業全体のレベルアップが可能となります。
ナレッジマネジメントについてより詳しく知るなら、ぜひ以下の記事も併せてご覧ください。
暗黙知を形式知(見える化)にする方法
暗黙知を形式知化する際は、情報・知識を読み返す人、検索する人など、利用するそれぞれの目的に合わせて適切な形式に落とし込みます。しかし、形式知への落とし込み方法については、暗黙知を持つ当人だけで模索してもなかなか適切な方法が見つからないものです。
形式知は、主に自分以外の人が引き出して使う情報です。だからこそ、自分以外の人とやりとりをし、相談しながら適切な形式を決めていくことが大切です。
SECI(セキ)モデルを使う
暗黙知を形式知にするにあたっては、SECIモデルをベースにするとよいでしょう。
「SECIモデル」とは、一橋大学名誉教授である野中郁次郎氏が提唱してきた、ナレッジマネジメントのプロセスモデルのことです。
SECIモデルは次の4つのプロセスから成り立っています。プロセスを繰り返すことにより、情報・知識を蓄積し、新たなものを生み出していくことを目指しています。
- 共同化(Socialization)…誰かと共同作業をしながらお互いの暗黙知を共有し、新たな暗黙知や気付きを生み出す。または経験を共有して暗黙知を人から人へ移転させる。
- 表出化(Externalization)…共同化で生まれた新たな暗黙知や気付きを含め、文章や図表、数式など適切な形式に当てはめていく。また、それを誰かと共有する。
- 連結化(Combination)…共同化・表出化によって生まれた情報・知識をほかの形式知と組み合わせ、新しいもの(情報や商品・サービス)を生み出す。
- 内面化(Internalization)…連結化によって生まれたものやプロセスなどを振り返り、かみ砕いて自身のスキルやノウハウ・知識へ落とし込む。
内面化の次はまた共同化に戻り、企業や従業員はこのサイクルを回し続けます。繰り返しによってナレッジの蓄積が進み、企業・従業員ともにレベルアップしていくことができます。
SECIモデル「表出化」のプロセスが、暗黙知から形式知への変換に相当します。表出化のプロセスを含めたSECIモデル全体のサイクルを回していくことで、ナレッジの更新と定着が行えるようにしていきます。
SECIモデルに関して詳しくはこちらの記事もご覧ください。
形式知化するための場を作る
SECIモデルの4つのプロセスに取り組むためには、それぞれに適した場を用意する必要があります。SECIモデルのサイクルを回す際には、それぞれに対応する場を意識的に作っていくとよいでしょう。
プロセス | 対応する場 | 場の説明と具体例 |
---|---|---|
共同化 | 創発場 | 暗黙知から暗黙知を生むコミュニケーションの場。 |
表出化 | 対話場 | 暗黙知を形式知に変換する場。 |
連結化 | システム場 | 形式知を集約し連結する場。 |
内面化 | 実践場 | 形式知を実践し、新たな暗黙知を生む場。 |
知的財産を継承するための仕組みを作る
暗黙知から変換した形式知は、ナレッジであり企業における知的財産でもあります。SECIモデルのサイクルを回して新しいナレッジを獲得するとともに、蓄積したナレッジをどのように継承していくかを考える必要があるでしょう。
ナレッジは必要な社員に届いてこそ効果を発揮します。必要な社員が必要なナレッジにアクセスできる仕組みの構築にも取り組みましょう。
ナレッジマネジメントツールを導入する
暗黙知を形式知に変えて効果的に活用するために、考えるべきことは山積みです。「どこに蓄積していくべきか」、「どのようなカテゴリ分けで残すべきか」、「後から探す方法はどうするか」こうした問題の解決に効果的なのが、ナレッジマネジメントツールです。
ナレッジマネジメントツールには、クラウドを使って簡単に始められるものから、しっかり作り込みたい企業向けのオンプレミス型までさまざまなタイプのものがあります。ツールのインターフェースや価格帯は多種多様で幅広く、目的や適用規模の要件にマッチするツールを選ぶ必要があるでしょう。
初めてのナレッジマネジメント導入には、シンプルな機能や、使い慣れたツールと連携ができるものがおすすめです。
難しい操作が不要で、簡単に情報を蓄積して活用できるものがよいでしょう。操作性の低さから、結局使われなくなってしまわないように、シンプルで直感的に操作できるツールを選びたいものです。
知識ビジョンを計画・決定する
知識ビジョンとは、どのような知識を創っていくか、またどのようにそれを評価するのかなど、知識創出の方向性や理想像を定義したものです。
SECIモデルを用いたナレッジマネジメントは、明確なゴールのない継続的な取り組みです。
そのため、取り組みを評価しにくくモチベーションを保ちにくい点が課題といえます。あらかじめ知識ビジョンを計画・決定しておけば、方向性がブレることなく、継続的な取り組みの評価をしやすくなるでしょう。
形式知化する際の注意点やコツ
暗黙知はもともと何らかの形式に落とし込みにくい性質のため、形式知化するにあたって注意すべき点やコツがあります。4つのポイントをご紹介します。
暗黙知を形式知にすることの重要性を理解する
形式知は自然発生的にできるものではなく、暗黙知を意図的に変換する必要のある作業です。したがって、暗黙知を形式知化に変える目的や理由、その重要性を当事者が理解していることが不可欠です。「企業や組織の理念や目的に沿った重要な活動である」という経営層やリーダーからの強いメッセージも必要でしょう。
書類化では埋もれてしまうことがある
ノウハウをマニュアルなどの書類としてまとめることは形式知化の手段の一つです。しかし、書類の量が多いと必要なノウハウが探しにくくなります。蓄積することに加えて参照しやすく再利用性の高い形式や形態を選ぶことが重要です。
動画化することで分かりやすくなる
今や多くの教材が動画で提供されるようになりました。動画なら、文章や図表では形式知化が困難な製造技術などについても記録が簡単ですし、後で繰り返し再生することもできます。
動画は文章や図表だけで伝えるよりも内容を理解しやすく、伝える力も強力です。暗黙知を記録し他の人に伝える有効な手段としてますます注目されていくことでしょう。
ITツールの導入で検索しやすくなる
暗黙知を文字化、動画化したものを一ヵ所に蓄積して検索しやすくするためのITツールが登場しています。特にデジタルな形式知はITツールと相性がよく、暗黙知の蓄積・検索がしやすくなります。暗黙知から形式知への変換に留まらず、従業員のスキルアップや新人教育の効率化、ノウハウの知的財産化までを強力に進めることができるでしょう。
暗黙知から形式知化するには「Qast」の活用を
https://qast.jp/暗黙知から形式知への変換や、変換した形式知の活用と継承をサポートするナレッジマネジメントツールとして、ナレッジプラットフォーム「Qast」がおすすめです。
Qastの特徴や機能
特徴
Qastの大きな特徴は、誰でも使いやすいシンプルなツールであることです。
暗黙知を持っている熟練技術者がITリテラシーに長けており、デジタルツールを使いこなせるのであれば、形式知への変換も進みやすいでしょう。しかし、必ずしも熟練技術者がデジタルツールを使いこなせるとは限りません。熟練技術者が暗黙知を形式知に変換しようと前向きになったとしても、ツールの使い方が分かりにくければ頓挫してしまうでしょう。
その点、Qastは直感的に操作しやすく、日々の業務におけるコミュニケーションツールとしても定着しやすいツールです。Qastを導入すれば、日々のコミュニケーションのなかで自然にナレッジが蓄積・活用される環境を構築できるでしょう。
機能
Qastには主に以下のような機能があります。
- 誰かの疑問とそれに対する回答を社内に共有できる「Q&A機能」
- シンプルなステップでマニュアルやノウハウなどのナレッジ発信ができる「メモ機能」
- 業務の困りごとや質問を匿名で投稿でき、社内の情報ニーズがわかる「こましりbox機能」
- スキルや過去の投稿ナレッジも可視化できる「プロフィール機能」
- 部署やチームなど任意のメンバーで情報共有できる「ワークスペース機能」
- 社内での活用状況やナレッジの傾向分析ができる「ダッシュボード機能」
その他にも、Qastにはナレッジマネジメントを加速する多様な機能が備わっています。詳細はぜひQastのWebサイトからご確認ください。
Qastの導入事例
学習塾・予備校を運営する株式会社日本エルデイアイ様は、Qastを導入してナレッジマネジメントに取り組まれています。
株式会社日本エルデイアイ様は以前、比較的少人数で業務に対応しているため一人一人の業務の質による影響度合いが大きい、また生徒や親御さんとの相性など不確定要素が多く適切な対応をパターン化しにくいといった課題を抱えていました。
しかし、対応のなかに一定の傾向があることに着目し「ナレッジ共有プロジェクト」を立ち上げ、Qastを導入。誰でも使いやすいシンプルさと優れた検索性能を活かし、各社員のノウハウをナレッジとして蓄積することに成功しています。
また、メモへのコメント機能を活用し、リアルタイムのコミュニケーションのなかでナレッジが強化される仕組み作りを実現しています。
>>株式会社日本エルデイアイ様の導入事例の詳細はこちらまとめ
形式知とは、文章・図表・数式など何らかの形式で表現され、客観的に誰もが理解ができる知識です。労働人口の減少や働き方改革が進むなか、今後も安定した経営を維持するためには、暗黙知を形式知へと変換しナレッジマネジメントに取り組むことが欠かせません。
この記事で解説した暗黙知を形式知化する方法やツールを参考に、ぜひナレッジマネジメントに取り組んでみてください。