工場の自動化(ファクトリーオートメーション)とは?メリットや課題について解説

IT技術の進化や労働人口の減少を背景に、多くの工場で自動化の取り組みが行われています。しかし、自動化を行うとなると既存の仕組みから大幅な変更が必要になるため、どこから着手してよいか分からないという現場も多いでしょう。

この記事では、工場の自動化についてメリットや課題、進め方のコツなどを解説します。

工場の自動化(ファクトリーオートメーション)とは

工場の自動化とは、人間が手で行っている作業を機械やシステムに置き換え、作業を自動化する取り組みを指します。自動化はファクトリーオートメーション(Factory Automation)の頭文字を取ってFAとも呼ばれます。

実際どのように自動化されている?

実際、日本の工場でどのような自動化が行われているのかをご紹介します。

産業用ロボットの導入で自動化

産業用ロボットによる自動化は、1960~1970年代から既に取り組みが始まっていました。自動車製造のラインにおける産業用ロボットが有名です。現在でも、人の手の動きを再現するロボットアームや自動で荷物を運搬するAGVなどが多くの工場で導入されています。

IoTやAIシステムの活用で自動化

IT技術の発展によって登場したのが、IoTやAIシステムによる自動化です。IoTのセンサーで取得した情報をAIで分析し、最適な設備操作を実現するなどの取り組みが進んでいます。

たとえば、電子部品の焼成や検査の工程で温湿度と検査結果のデータを突き合わせ、AIが最適な温湿度で設備が稼働するよう指示を出すなどの自動化が該当します。IoTやAIの活用は比較的新しい技術であり、今後ますます活用が進むでしょう。

工場を自動化するメリット

では、工場で自動化を推進することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。7つのポイントに分けて解説します。

人材不足の解消に繋がる

自動化によりこれまで人が行っていた作業が不要になれば、より少ない人数で作業に対応できるようになります。

不要になった人手を他の作業に割り当てれば、他の作業の人員不足解消にも繋がるでしょう。

作業の効率化が図れる

機械やシステムは指示された内容に従って効率的に作業を進めます。高度な技術や判断が必要な作業を除けば、自動化を行ったほうが作業の効率は高まります。

生産性の向上に繋がる

作業の自動化ができれば、その分のリソースを別のコア業務に割り当てられるようになります。設計開発プロセスの改善や新しい自動化の検討など、生産性の向上に繋がる業務にリソースを避けるようになるでしょう。

人件費やコストの削減に繋がる

自動化により必要な人員が少なくなれば、人件費の削減に繋がります。また、効率的に作業を進められることで、不良品や不要な在庫を減らすこともできるでしょう。自動化には機械やシステムの導入にコストがかかりますが、トータルで見ればコスト削減を図れる可能性があります。

人為的なミスを防げる

人が作業を行うとミスはつきものですが、機械やシステムは指示に従って正確に作業を行います。疲労によるオペレーションミスや、注意散漫によるチェック漏れなどの人為的なミスをなくすことができます。

品質の向上や安定化に繋がる

手作業では担当者のスキルや経験によって作業の品質に差が出やすいものですが、機械やシステムであれば一定の品質で作業ができます。作業品質の底上げや安定化にも効果があります。

技能継承に向けた人材育成に取り組める

製造業では技術者の高齢化が進み、技能継承が課題となっています。自動化に取り組めば、機械やシステムに置き換えられる作業は引き継ぎが要りませんし、自動化で削減できた工数を技能継承に割り当てられるため、効率的な世代交代が実現するでしょう。

製造業の技能継承問題については以下の記事で詳しく解説しています。

製造業で進む高齢化と「技能継承」問題にどう向き合うべきか
製造業で進む高齢化と「技能継承」問題にどう向き合うべきか
日本の人口は減少局面と超高齢化を迎えており、2065年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率は38%台になると推計されています。いわずもがな、ものづくり産業においても高齢化が進み、特に熟練者の技能継承については問題を抱えています。「技能継承に問題がある」と考えている事業所は産業別で製造業が86.5%と最も高い結果となりました。

工場を自動化するための課題

工場の自動化ではさまざまなメリットが得られますが、自動化に取り組む企業の多くでは、以下のような課題にも直面しています。

導入・維持するためのコストがかかる

自動化を行うための機械やシステムの導入には、高額な導入コストが必要となります。また、導入する機械やシステムは高度な技術を利用したものになるため、メンテナンス自体もベンダー依頼となるケースが多く、メンテナンス費用も高額になりがちです。

自動化には取り組みたいものの予算の確保が難しいという企業は決して少なくありません。

機械を設置するスペースが必要になる

機械やシステムを新しく導入するためには、設置スペースが必要になります。また、ネットワークに接続して利用する場合にはネットワーク機器の設置も必要になるでしょう。

これまで機械やシステムを使わず作業してきた現場では、機器の設置スペースの確保ができず、消防法などの兼ね合いもあり大幅なレイアウト変更が必要となるケースもあります。

全ての業務を自動化することは難しい

自動化の技術が発展を続けているとはいえ、高度な技術や判断が必要となる作業まで自動化するのは難しいのが実状です。

また、前述の通りコストに関する課題もあります。全体の工程のうちどの作業を自動化するべきか、コストパフォーマンスをふまえた検討が必要になるでしょう。

専門知識をもった人材の確保が必要になる

自動化に取り組むためには、生産工程の知識と産業用ロボットを含めたIT技術に関する知識の両方を兼ね備えた人材が必要になります。

しかし、現在の日本ではIT人材が不足しているため、人材の確保が難しいのが実状です。人材を確保するためには、自社でIT人材を育成する育成コスト、もしくは外部に委託する外注コストがかかるでしょう。

工場を自動化した事例

ご紹介したような課題を乗り越え工場を自動化した具体的な事例を3つご紹介します。

品質検査にAIの機械学習を活用

自動車製造業A社の工場では、AIによる品質検査を導入しました。品質検査はこれまで人が行っていましたが、さらなる量産体制の構築にあわせ、より効率的に品質検査が行うためにAIを導入。その結果、AIの機械学習により安定した品質検査が可能になりました。今後はすべての品質検査がAIに置き換えられる予定となっています。

最新技術を活用して工場の無人化を実現

工作機械の製造業B社は、IoTやビッグデータ、AIなどの最新技術を活用し、工場の自動化・無人化を推進しています。積極的に取り組みを行った結果、ある工場では週末の72時間を無人で稼働することに成功しました。

また、自動化によって削減されたリソースを付加価値の高い業務に再分配し、生産性向上を図っています。

ピッキングと搬送を自走式ロボットで自動化

物流業のC社では、これまで人が行っていたピッキング作業をロボットで自動化しています。自走式ロボットであればピッキングだけでなく搬送までを完全自動化できると考え、自走式ロボットを導入。

その結果、ピッキングと搬送の自動化に成功し、生産労働性は1.6倍、必要人員18人から11人への削減に成功しています。

工場の自動化の実現に向けたポイント

最後に、工場の自動化の課題をふまえ、自動化実現に向けたポイントを解説します。

自動化の目的の明確化や課題を抽出する

まずは自動化の目的を明確化し、課題を抽出しましょう。自動化の取り組みには決して少なくないコストがかかります。投入するコストに対して得られる効果が十分なのかは、目的や課題が明確になっていなければ判断が難しいでしょう。まずは目的や課題を明確化し、KPIを設定すれば、取り組み後の効果測定が行いやすくなります。

スモールスタートから進める

導入候補に複数の現場がある場合には、パイロットとして一つの現場からスモールスタートで導入を行い、徐々に全体に展開していきましょう。

そのうえで繰り返し効果検証を行えば、より具体的に自動化の効果を想定しやすくなり、トラブルのない導入が実現します。

既存設備との連携を考える

現在の技術やコストなどの理由から、どの工場においても全ての業務を一気に自動化するのは難しいはずです。一定数の既存設備はそのまま残り続けることになります。

その際、新しく導入した機械やシステムが既存設備と連携できないと、生産工程が止まり、大きな損失に繋がる可能性があります。既存設備との連携が可能かを入念にテストし、影響をできる限り最小化したかたちで導入を検討しましょう。

従業員への周知や環境整・教育が必要

自動化の取り組みによってこれまでの仕組みががらりと変わるため、変化に対する従業員の負担が大きくなります。

長年自分が担当していた作業が機械やシステムに置き換わってしまうことや、手が空いたためによく分からない別業務にアサインされてしまうことに抵抗を感じる従業員もいるでしょう。従業員の理解・協力を得られるよう、周知や教育などの環境整備に力を入れることが重要です。

まとめ

工場を自動化するファクトリーオートメーションの取り組みは多くの企業で始まっていますが、多くの課題に直面している企業が多いのが現状です。自動化ができれば多くのメリットが得られますが、多大なコストがかかるリスクもあるため、慎重に取り組む必要があります。

この記事で解説したポイントを参考に、メリットとリスクの両面を理解したうえで、効果的な工場の自動化にぜひ取り組んでみてください。

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