オンボーディングとは?目的や取り組むメリット、実施するためのポイントについて解説
「コストをかけて人材を採用・育成したのに早期に離職されてしまい、振り出しに戻ってしまった」といった経験のある企業は多いでしょう。人材不足が慢性化している今日では、採用した人材を早期に定着させる取り組みが重要です。
この記事では、オンボーディングの目的やメリット、取り組みを行う際のポイントなどを解説します。
目次
オンボーディングとは?
まず、オンボーディングの意味や目的、混同されやすい用語との違いを解説します。
オンボーディングの意味や目的
オンボーディング(on-boarding)とは、英語で「飛行機や船などの乗り物に乗っている状態」を指します。さらに、ただ乗り物に乗っているだけでなく、乗員がお互いをサポートし、同じ目的地に向かっているというニュアンスも含まれます。そこから、新しく組織に参画した人材が早期に定着し能力を発揮できるようにするための継続的な取り組みを意味するようになりました。
一般的なオンボーディングの対象は新入社員や中途採用者ですが、出向や異動で新しく参画したメンバーを含める場合もあります。オンボーディングが効果を発揮するためには、上司や教育担当者だけでなく、組織全員が一丸となって取り組む必要があります。
新人研修との違い
新入社員研修は、新入社員の早期定着や教育を目的とした取り組みですが、オンボーディングに比べると対象範囲が狭く、かつ一般的な新入社員研修は一度もしくは多くても数回程度の取り組みである場合がほとんどです。一方、オンボーディングは対象が新入社員に限らず広範囲であり、継続的な取り組みであるという特徴があります。
OJTとの違い
OJT(On The Job Training)は、新入社員や業務未経験者に対し、現場の教育担当者が実務を通して業務知識やスキルを教える教育方法を指します。業務における即戦力化を目的に実施され、期間も数ヵ月程度で行なわれる場合が一般的です。オンボーディングとは目的や期間、教育内容などが異なり、オンボーディングの一環としてOJTが行なわれるケースが多いでしょう。
オリエンテーションとの違い
オリエンテーションは、新入社員や中途採用者に対して会社概要や社内組織、社内ルールなどを説明する取り組みです。主に新しく会社に入った人員に会社を知ってもらうために行なわれ、数日程度で完了する場合がほとんどです。OJTと同様、オンボーディングの一環として行なわれるケースが多いでしょう。
オンボーディングが注目されるようになった背景
オンボーディングが注目されるようになった背景について解説します。
転職希望者の増加
総務省統計局の調査によると、2022年の転職者数は303万人、2023年では328万人と、新型コロナウイルスの影響により減少していた2020年、2021年を経て増加に転じています。また、転職者比率として男女共に15歳~24歳の若い世代が最も多いことが分かっています。
若手が企業に留まらず人材不足が慢性的になっていることから、獲得した人材の離職をいかに防ぐかが、企業にとって重要となってきています。
出典:総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2022年(令和4年)平均結果の概要」
出典:総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2023年(令和5年)平均結果の概要」
労働力人口の減少
厚生労働省の厚生労働白書によると、2022年の出生数は80万人を割り込み少子化が急速に進む一方、団塊世代や団塊ジュニア世代が65歳以上となることで、2070年には総人口のうち65歳以上の方が38.7%になる見込みとなっています。
2020年時点で1億2,615万人となっている総人口も、2070年には8,700万人まで減少する見込みです。企業経営を安定化させるためには、今後の少子高齢化を見据え、いかに労働者を確保し即戦力化するかが課題となるでしょう。
働き方の多様化
労働者を確保するためには、労働者に多様な働き方を提供することが重要となります。総務省の情報通信白書によると、新型コロナウイルスの感染拡大以降テレワークが急速に広まり、第1回緊急事態宣言発令時には56.4%、第2回の発令時には38.4%の企業がテレワークを実施しました。
一方、日本労働組合総連合会の調査では、テレワーク導入後に浮き彫りになった課題として、回答した労働者の37.6%が社内コミュニケーションの不足を挙げています。今後も継続してテレワークなど多様な働き方を提供するならば、新入社員や新たなメンバーといかにコミュニケーションを取りながらフォローするかも人材確保において重要となるでしょう。
出典:総務省「令和3年版情報通信白書」日本労働組合総連合会「テレワークに関する調査2020」
オンボーディングを実施するメリット
オンボーディングの実施で得られるさまざまなメリットを解説します。
離職防止・定着率の向上に繋がる
オンボーディングに取り組み、新入社員や中途採用者がスムーズに現場に馴染めれば、離職防止や定着率の向上に繋がるでしょう。
厚生労働省の「令和3年雇用動向調査結果の概況」によると、「職場の人間関係が好ましくなかった」が前職を辞めた理由で最も多くなりました。オンボーディングによって早期に職場に馴染み、円滑なコミュニケーションが取れるようになれば、離職の防止に大きな効果があるはずです。
早期戦略化が図れる
オンボーディングの取り組みの中には、企業風土や社内制度、業務知識に対する新メンバーの理解の促進も含まれます。
新メンバーが早期に戦力となるには、専門的な知識だけでなく、その企業での仕事の進め方に対する理解が不可欠です。オンボーディングによってこれをフォローできれば、早期に能力を発揮できるようになるでしょう。
従業員エンゲージメントの向上に繋がる
コミュニケーションの円滑化によってメリットを得られるのは新メンバーだけではありません。上司は新メンバーのマネジメントがしやすくなりますし、教育担当は教育を通して新たな気付きを得られることも少なくありません。
また、職場全体として従業員同士がコミュニケーションを取りやすい労働環境を構築できれば、従業員エンゲージメント向上に繋がります。
従業員のエンゲージメントを向上させる方法は以下で詳しく解説しています。
生産性の向上が図れる
オンボーディングによって縦横のコミュニケーションが円滑化し、新メンバーが早期に能力を発揮できれば、チームの生産性向上に繋がります。また、縦横のコミュニケーションの円滑化が進めば、部門間で連携を取りながらスムーズに施策を進められるようになるでしょう。
適切なオンボーディングは組織全体を活性化させ、業績アップも図ることができるのです。
人材育成の環境を整えられる
オンボーディングによる新メンバーの育成環境整備は、人材の即戦力化に繋がります。新メンバーが困った部分などをフィードバックしてもらい、育成環境の改善に努めていくことで、誰でも早期の戦力化ができる人材育成環境を構築できるでしょう。
採用や人材コストの削減に繋がる
労働市場が停滞しており、かつ労働人口の減少が見込まれている現代において、採用コストは年々高まっていくと考えられます。せっかく採用できた人材が早期に離職してしまっては、大幅な採用コストのロスに繋がります。しかし、オンボーディングで離職しにくい労働環境を構築できれば採用コスト削減に繋がり、その分のコストを別事業に割り振ることができるでしょう。
オンボーディングに取り組むための流れやポイント
オンボーディングは継続性が必要な取り組みです。また、成果を出すためにはオンボーディングの流れを理解してPDCAを回していくことが大切です。その具体的な流れを解説します。
目的の明確化
まずはオンボーディングを行う目的を明確化しましょう。目的なしでは方向性がブレやすく、効果検証もしにくくなります。例えば、新メンバーが一通りの業務を理解し主体となって動けるようになるまでに半年かかっていたのであれば、今後は3ヵ月で独り立ちできるようにする、といった目標を立てましょう。目標を設定する際は、数値を用いて具体的に設定するのがおすすめです。
具体的なプランの設定
目標を達成するため、目標から逆算して具体的なプランを設定しましょう。どのタイミングでどのようなフォローを行うのか、期日を明確にしておくことが重要です。
また、月に一度は新メンバーと面談してフィードバックするなど、コミュニケーションの頻度も検討しておくと良いでしょう。特に参画初期は新メンバーのイメージと現実のギャップが生まれやすいため、重点的なフォローが大切です。
環境の整備
オンボーディングを実施するためには、社内で新メンバーを受け入れるチームへの周知やフォロー環境を整える必要があります。設定したプランに沿って事前に周知を行うほか、教育に必要な資料の準備や懇親会の計画などを進めましょう。
また、テレワークなどの多様な働き方が取り入れられる今日では、どのようにコミュニケーション環境を整えるかも重要となります。社内ポータルや社内SNSといったツールの導入など、コミュニケーションを活性化させる取り組みも必要です。
実施と振り返り
事前準備が整ったら、実際にオンボーディングを実施しましょう。定期的に新メンバーとコミュニケーションを取りながら、プランの修正やフォロー体制の強化を適宜行います。
オンボーディング実施後は、結果や新メンバーからのフィードバックを受けながら、振り返りをしましょう。振り返りによって改善点を洗い出し、今後の取り組みに活かせば、より良いオンボーディングができるようになります。
オンボーディングの導入事例
オンボーディングを導入し、成功した具体的な事例をご紹介します。
事例1
ITベンダーであるA社は、社員エンゲージメントを醸成し社員の自主性と定着率の向上を図るためにオンボーディングを導入しました。
オンボーディングのなかでは、経営理念や組織形態、社内ルールなどの基礎研修を徹底するとともに、ナビゲーターやサクセスマネージャーと呼ばれる専任のスタッフを設けています。手厚いオンボーディング体制を整備することで、社員エンゲージメント率85%という高い水準を実現しています。
事例2
ITエンジニア向けのさまざまなサービスを提供しているB社では新型コロナウイルスによってテレワークに移行しましたが、移行後のコミュニケーションが課題となっていました。
特に新入社員との信頼関係を構築できず、業務につまずきやすい、職場に馴染めないという問題が発生していました。
そこでオンボーディングを導入し、リモートランチやリモート歓迎会など、テレワークでも可能なイベントを実施。コミュニケーションの場を増やす施策を取り入れることで、テレワークであってもコミュニケーション不足に陥らない環境を実現しました。
オンボーディングを実施する際のポイントや注意点
効果的なオンボーディングを実施するためにチェックすべきポイントや注意点を解説します。
サポート環境を整えておく
オンボーディングにおいては、事前にサポート環境を整えておくことがとても大切です。人事部のみ、現場担当者のみなど、サポート環境に偏りがあると、社員が疑問や不安を口に出しにくくなり、オンボーディングの効果を得にくくなってしまいます。
縦横それぞれの繋がりを意識しながらサポート環境を整えるといいでしょう。また、テレワークを導入している場合には、テレワークにおいてどのようにコミュニケーションを取っていくかも検討しましょう。
定期的に面談を行う
オンボーディング実施中にも定期的に面談を行い、社員と認識をすり合わせる場を作りましょう。
社員の成長や今後の期待値を言語化しすり合わせることで、入社後のギャップ解消やモチベーションアップに繋がります。
年齢や職級が近い社員をサポート役として設定するメンター制度や、管理職と1対1で面談する場である1on1ミーティングの実施なども有効です。
目標は細かく分けて設定する
社員のモチベーションアップや成長を実現するためには、成功体験を積み重ねることが重要となります。
目標を細かく分けて設定し、社員に成功体験を積ませることを意識しましょう。目標に対する実績を定期面談のなかで振り返り、適切なフィードバックを行うといいでしょう。
コミュニケーションが取りやすい環境を整備する
オンボーディングを実施するためには、コミュニケーションが取りやすい環境づくりが欠かせません。近年ではテレワークや時短勤務などさまざまな働き方を提供している企業も多く、それぞれの働き方に適したコミュニケーションを取ることが求められています。
物理的に離れた環境や時間差がある環境でも円滑にコミュニケーションが促進できるツールを導入すれば、より効果的なオンボーディングの環境を実現できるでしょう。
オンボーディングにはコミュニケーションが重要
効果的なオンボーディングにはコミュニケーションが大事であることは広く認識されていますが、ナレッジの蓄積については忘れがちではないでしょうか。
コミュニケーションを取りやすくするだけでナレッジの蓄積をおろそかにしていると、同じような質問が繰り返され、教育担当者の負担が大きくなります。
結果として、教育担当者が忙しいから相談がしにくい、コミュニケーションが取れないという問題が発生しがちです。
そのため、オンボーディングにツールを活用するならば、コミュニケーションとナレッジ蓄積の両方を実現できるものを選ぶといいでしょう。たとえば、ナレッジプラットフォーム「Qast」であれば、優れた検索機能によってよくある質問を自己解決できるようにしたり、フォルダ分けやタグ付け機能でオンボーディングに役立つナレッジを集めておいたりできます。
また、困っていることや知りたいことを匿名で投稿できる「こましりbox」機能を使えば、質問するハードルを下げることができるでしょう。
Qastはクラウドサービスなので、テレワークや時短勤務などの多様な働き方においても、適切なタイミングで適切なコミュニケーションを取ることができます。オンボーディングにおけるコミュニケーションのなかで新たなナレッジを発見し蓄積できる仕組みづくりに効果的です。
まとめ
人材の採用コストが増加する今こそ、オンボーディングによって新メンバーの離職を防ぎ、早期戦力化を図る取り組みが重要です。適切なオンボーディングは、新メンバーのみでなく組織全体のエンゲージメントや生産性向上にも効果を発揮します。
オンボーディングを行う際に大切になるのが、コミュニケーションとナレッジの蓄積です。オンボーディングを導入する際には、コミュニケーションとあわせてナレッジの蓄積も円滑に行えるツールを導入し、コミュニケーションのハードルを下げられる環境を整備しましょう。