コンピテンシーとは?意味や人事評価や研修への活用メリット、導入の流れについて
優秀な人材の採用や育成のために活用されるコンピテンシー。近年、日本でもコンピテンシーを活用した人材評価や研修を取り入れる企業が増えています。
この記事では、コンピテンシーの意味や関連用語との違い、活用できる範囲やメリット・デメリット、評価基準と導入の流れやポイントをご紹介します。
目次
コンピテンシー(competency)とは
コンピテンシー(competency)とは、優れた成果を生み出す業務遂行能力の高い人材に共通する考え方や行動特性を指します。
ただ、コンピテンシーは非常に定義の曖昧な言葉で、研究や翻訳のたびに何度も意味が変わっています。そもそもは本来目に見えづらい性格や価値観を重視する概念ですが、現在では目に見えるスキルや行動まで含めることもあります。
重要なのは「コンピテンシー=仕事のできる方に共通する特性」であることです。コンピテンシーを導入すると、優れた人材を分析し一般化することによる従業員の成長が期待できます。
コンピテンシーが生まれたきっかけ
コンピテンシーが生まれたきっかけは、1970年代のUSIA(アメリカ合衆国広報文化交流局)の職員採用方法にあるといわれています。当時、USIAはIQや学歴を基準に人材を採用していましたが、同じ高IQ・高学歴な人物であっても、生み出す成果には差があることに注目しました。
そこで、高い成果を生み出している職員とそうでない職員とを調査・分析した結果、成績のよい職員には共通事項があることが明らかになりました。そこからコンピテンシーの概念は生まれています。
日本で注目されるようになった背景
日本でコンピテンシーが注目され始めたのは1990年代ごろ、バブル経済が崩壊した時期だといわれています。国内全体が未曽有の不景気に襲われるなか、従来の年功序列的な人事評価の有効性が薄れ、成果主義に基づく指標としてコンピテンシーが注目されました。
現在、コンピテンシーは、人材の採用・育成・評価など、人事に関する幅広いシーンで活用されています。
コンピテンシーと他の用語との違い
コンピテンシーには「スキル」や「コアコンピタンス」など、混同されやすい用語があります。その違いを押さえておきましょう。
スキルとの違い
スキルとは、後天的に身に付けた能力や技能のことです。外国語スキル、会計スキル、プログラミングスキルなど、勉強や訓練で習得した技術を指します。
一方、コンピテンシーは主に目に見えづらい考え方や特性を指すものです。「(できる社員に共通した)スキルを有効に活用するための前提となる価値観や考え方」がコンピテンシーだともいい換えられるでしょう。
コアコンピタンスとの違い
コアコンピタンスとは、組織の核となる技術や特色、いわば企業の強みのことです。他社に真似をされにくい自社ならではの長所を指します。語感こそ似ていますが、コンピテンシーは個人レベル、コアコンピタンスは企業レベルの用語であり、意味も異なります。
アビリティとの違い
アビリティとは能力や技能のことです。スキルが後天的に身に付けた力であるのに対して、アビリティは生まれ持った能力を主に指します。
アビリティとコンピテンシーはよく似ていますが、アビリティが能力や技能自体を指すのに対して、コンピテンシーはその力を発揮するための考え方や価値観までを含む点で異なります。
ケイパビリティとの違い
ビジネスシーンにおけるケイパビリティとは、企業の組織力・総合的な力を意味する言葉です。コアコンピタンスが「特定の特許技術」のようにある一要素を指すのに対して、ケイパビリティは企業の全体的な力を表します。個人レベルの用語であるコンピテンシーとは視座が異なります。
ここまでのコンピテンシーと関連用語との違いを表にまとめました。
用語 | 特徴 |
---|---|
コンピテンシー | 優れた成果を生み出す業務遂行能力の高い人材に共通する考え方や行動特性のこと |
スキル | 後天的に身に付けた能力や技能のことで、スキルを発揮するための前提がコンピテンシー |
コアコンピタンス | 組織の核となる技術や特色、いわば企業の強みのこと |
アビリティ | 能力や技能のこと スキルが後天的に身に付けた力であるのに対して、アビリティは生まれ持った能力を主に指す |
ケイパビリティ | 企業の組織力・総合的な力のこと コアコンピタンスがある一要素を指すのに対して、ケイパビリティは企業の全体的な力 |
コンピテンシーを活用できる範囲
注目が集まるコンピテンシーですが、現場ではどのようなシーンで活用されているのでしょうか。ここではコンピテンシーを活用できる業務範囲をご紹介します。
採用面接
コンピテンシーを採用面接に取り入れると、高い成果を生み出す人材を採用しやすくなります。「これまでの成功体験は?」「これまでで一番失敗したと感じた経験やその原因は?」といった質問がコンピテンシーを活用した質問の例です。優秀な人材と同じ考え方や行動傾向を持つ方を採用することで、自社とのミスマッチを減らせます。
能力やキャリアの開発
コンピテンシーは人材育成にも活用できます。優秀な人材の考え方や行動を従業員にトレースさせることで、自社の成果に貢献する人材へと成長してもらえます。単純な成果を生み出すだけでなく、従業員の積極性やモチベーションアップなどの副次的な効果も期待できるでしょう。
人事評価
人事評価はもっとも一般的なコンピテンシーの活用方法です。高い成果を出している人をモデルに評価基準を設定することで、人事評価の不透明さやバラつきを少なくできます。評価基準をクリアすることが優秀な人材へのステップアップになるため、能力開発にも繋がります。
コンピテンシーを活用することで得られるメリット
コンピテンシーの主な活用シーンをご紹介したところで、あらためてコンピテンシー評価の導入メリットを解説します。
従業員が納得できる評価を出せる
目に見えて成果を出している人材をモデルにした評価基準であれば、周囲の従業員も納得しやすくなります。また、評価基準の明確化は、評価作業にまつわる労力の削減にも繋がります。
パフォーマンスの高い人材を育成できる
コンピテンシーを元に従業員がステップアップしていけば、自社に貢献するパフォーマンスの高い人材へと成長してくれます。評価基準が明確なため、自他共に不足している部分を見つけやすく、今後の育成パスを考えやすくなるためです。
自社の生産性の向上に繋がる
優れたパフォーマンスを発揮する人材を社内に増やすことができれば、自社の生産性も向上していきます。
「成果を出す人物が正しく評価される」と納得感のある職場環境を実現できることから、全員のモチベーションアップや社内の人間関係の好転も期待できます。
採用後のミスマッチが減らせる
人材採用後に自社とのミスマッチが発覚する失敗を避けやすくなるのも、コンピテンシー評価の導入の魅力です。
コンピテンシー評価は実際に成果を残している既存社員を参考に作り上げるものであり、IQや教養テストといった一般的な基準よりも自社での活躍の可能性を高精度に予測できます。
コンピテンシー評価の課題・デメリット
コンピテンシーの活用には大きなメリットがありますが、課題やデメリットも存在します。
コンピテンシーの作成の難易度が高い
コンピテンシーは、ハイパフォーマーの行動特性分析やモデリングによって初めて導入できます。偏りが起こらないよう複数のハイパフォーマーを対象にする必要があるため手間が多く、導入ハードルが高いという課題があります。
ブラッシュアップの頻度が高いと定着が難しくなる
コンピテンシーは部署や業務によって異なり、会社の成長や事業内容の変更などが発生した際にも見直しやブラッシュアップが必要となります。しかし、ブラッシュアップの頻度が高いと社員が混乱し、社内への定着が難しくなります。
コンピテンシーの評価基準
社員のコンピテンシーは、5つのレベルを通じて評価する形が主流です。数値が大きなレベルの特徴に該当する人材ほど、コンピテンシーが優れているといえます。
レベル1:受動行動
レベル1の受動行動は、周囲からいわれたことを受け身でこなす状態です。上司からその都度指示されながら業務をこなすなど、主体的に行動しない、いわゆる指示待ちの社員に当たります。
レベル2:通常行動
レベル2の通常行動は、マニュアル通りに行動するなど、通常の業務を普通にこなせる段階を指します。主体的な行動は見られないものの、決められた作業は完了できる状態です。
レベル3:能動・主体的行動
レベル3の能動・主体的行動は、決められた枠組みのなかで自発的なアクションができる段階です。複数ある業務の解決策から適切なものを選び取るなど、ルール内で主体的な行動が見られ始めるレベルを指します。
レベル4:創造・課題解決行動
レベル4の創造・課題解決行動は、成果のために自ら状況を変える一手を考えられる段階です。レベル3のような既にある選択肢を選ぶのではなく、自分で課題解決のためのアクションを創造できるレベルに当たります。
レベル5:パラダイム転換行動
レベル5のパラダイム転換行動は、既存の発想に捕らわれない新奇性のあるアイデアを生み出し、それを実行できる段階です。時には既存の業務プロセスさえ変えてしまうような「パラダイムシフト(価値観の革新的変化)」を発生させられる、もっともコンピテンシーの優れた人材です。
コンピテンシー導入の流れやポイント
ここでは、前述のコンピテンシー評価のメリット・デメリットを踏まえ、導入の流れとポイントを解説していきます。
ハイパフォーマーにヒアリングを行う
まずはハイパフォーマーへのヒアリングを行います。ハイパフォーマーにヒアリングを行う際は、どういった人材をハイパフォーマーとするかを明確にする必要があります。
部署や業務内容によって何を評価するかは変わってきますので、それぞれに適切な人材を選出して評価項目を定め、研修に活かすための行動特性を抽出するようにしましょう。コンピテンシーの選定を行う
ハイパフォーマーへのヒアリングが完了したら、抽出した評価項目や行動特性をコンピテンシー・ディクショナリーや企業のビジョン、ミッションと照らし合わせて、自社に合うコンピテンシーを選定します。
コンピテンシー・ディクショナリーとは、1993年に生み出されたコンピテンシーをモデル化するうえでベースとなる枠組みです。「達成・行動」「援助・対人支援」「インパクト・対人影響力」「管理領域」「知的領域」「個人の効果性」という6つの領域で20項目を分類しています。
達成度や習熟度をレベル分けする
コンピテンシーを選定してもゼロイチの評価ではかえって評価がしにくいため、達成度や習熟度によってレベル分けする必要があります。
人事評価の不透明さをなくすためにも、レベルごとの達成度や習熟度が従業員から明確になるようにしましょう。
運用・ブラッシュアップを行う
コンピテンシーを評価基準に落とし込んだら、実際に運用を開始します。会社の成長や事業内容の変更などによって既存のコンピテンシーの運用が難しい場合は適宜見直しやブラッシュアップを行う必要があります。
ただし、コンピテンシー評価の課題で解説した通り、ブラッシュアップが頻繁すぎて従業員が混乱しないかには配慮が必要でしょう。
Qastならコンピテンシーの導入がスムーズになります
コンピテンシー評価の導入をスムーズに進めるためには、ナレッジプラットフォーム「Qast」をぜひご活用ください。
Qastはシンプルな操作感が魅力の情報共有・連絡ツール。場所を問わずクラウド上で機能することから、部署や拠点が異なるハイパフォーマーへのヒアリングに使いやすく、コンピテンシーの収集を容易にします。
情報のフォルダ分けやタグ付けができる機能も充実しており、ヒアリング内容の整理が簡単になるのも特長です。定めたコンピテンシー評価の基準も、同じくQast上で全社員に公開できます。
アクセス制限などのセキュリティ機能も充実していて、不用意に情報が洩れるリスクも最小限。コンピテンシー評価の導入の際は、あわせてQastの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
コンピテンシーは、成果を出す社員に共通した特性です。納得感のある人事評価基準の設置、自社と相性のよい人材の採用、最短距離の人材育成プランの検討など、人事に関するさまざまな分野で活用できます。
一方で、コンピテンシーは、導入までのハードルが高い点が課題といえるでしょう。そのハードルを下げるための解決策として、社内の情報やナレッジの蓄積・共有をサポートするQastの活用をぜひご検討ください。